雷神の社
さてさてほんの すこしだけ、
昔話をしましょうか
これはとあるお社の 神様たちのお話です…
『 むかし、むかし そのむかし
とあるお社に、人が大好きな優しい神様がおりました。
神様の住む社の傍には、村がありました。
村人は 優しい神様を慕い、
神様は 善良な村人を好ましく思い、
友人のように 隣人のように 仲良く仲良く、暮らしておりました。
ある時、
人の世に 戦が起こりました。
戦の波は 瞬く間に国中を、神様の住む社の 傍の村をも飲み込みました。
村人たちは 毎日、社へ訪れては神様に祈り、お願いをしました。
「どうか、戦を止めて下さい。」
神様は 村人たちの願いに応えました。
神様が 是 と答えた瞬間、
太陽は隠れ、分厚い雲が空を覆ったかと思うと 豪雨が地上に降り注ぎました。
大好きな村人のため
雷神であった神様にできたことは 雨を降らせ、雷を落とすことだけでした。
豪雨は落雷を伴い
幾日も 幾日も 戦ごと、全てを洗い流してしまうかのように、国中に降り続けました。
願い通り 戦は止まりました。
しかし、
雨が止み 日の光が差し、地上が見えるようになった時
神様が見たものは ぬかるんだ、何もない、どこまでもどこまでも続く まっさらな地面だけでした。
国中の、どこへ行けども 行けども 続くのは地面ばかりでした。
社の傍の村は 消えました。
神様の大好きだった村人も 皆 いなくなってしまいました。
神様は 嘆き、悲しみました。
地面ばかりの国を直視できず 社の土地を人の世から切り離し
社を守る者たちの言葉も届かず 一人、社の中に籠ってしまいました。
悲しくて、悲しくて つらくて、つらくて
とうとう 耐えられない悲しみから、神様は 自分を二つに引き裂いてしまいました。
引き裂かれた神様は 幼い姿となり、力も半分ずつ
そして、
天から定められた自分の役目や名前、社の者たちの存在
神様として必要なこと 以外の 全てのことを、忘れていました。
社の者たちは 嘆き、己の至らなさを悔みました。
しかし、
二人となった神様の 心根だけは全く変わることなき優しい心。
彼らが慕った神様そのもの
人が大好きだった優しい神様 そのものでした。
社を守る者たちは 神様を守ることを、改めて誓いました。
もう二度と 幼くなってしまった神様たちが嘆くことのないように
もう二度と 幼くなってしまった神様たちにつらいことが訪れることのないように
そして、社を人の世から離しました。
ただし 完全には離せませんでした。
役目が果たせる程度に よっぽどのことがない限り 誰も、たどり着くことのないように
神様たちを守れるように ほんの少しだけ 離しました。
今でも、神様たちは 社の者たちと共に 暮らしています。
人の世を守る役目のために 暮らしています。 』
お話は、これでおしまい。
えっ?神様は、今はどこにいるのって?
それは誰にもわかりません。
けれども、本当に人が大好きな神様だったから、
もしも、本当に、ただただ 出会いたい、と強く願うことができれば
その心に 偽りがなければ
その心が 届くことがあれば
もしかしたら、幼い神様たちと出会うことができるかもしれませんね…